2010年10月19日

オーストラリア・バレエ団「くるみ割り人形」

2010年10月16日(土)15時 東京文化会館
振付・演出:グレアム・マーフィー
年老いたクララ:マリリン・ジョーンズ
クララ、バレリーナ:レイチェル・ローリンズ
子ども時代のクララ:柴平くるみ

医師/恋人の将校: ケヴィン・ジャクソン

スタンダードな「くるみ割り人形」とはまったく違ったストーリーで、ロシア人の元プリマバレリーナが、帝政ロシアのバレエ学校時代から、革命で恋人を亡くして、バレエ・リュスに入り、その後オーストラリアに渡ってボロバンスキーバレエ団のプリマになった、過去の人生をノスタルジックに振返るドラマです。
始まりの場面は、雪でなく太陽サンサン降り注ぐ真夏のクリスマス。主役は少女でなくて老女のクララ。という本家と正反対の設定にひねっています。
創立30周年記念に作られただけあって、実際のオーストラリアバレエ団の歴史を描いてもいます。最後に、クララがバレエ・リュスからボロバンスキーバレエに移籍して金平糖の精を踊るという設定ですが、このボロバンスキーバレエが核となり、現在のオーストラリアバレエ団ができたのです。

老いたクララを演じたマリリン・ジョーンズ。

首のしわとか、背中の丸いぐあいを見て、おそらく60過ぎかなと思いましたが、こちらのサイトによると、1940年生まれで、なんと70才!昔の写真の美しいこと!
音楽を聞いて昔のように踊りだすシーン、高いアラベスクはできなくても、はだしの足先がぐっと甲がきれいに伸びていてプリマとしての過去を物語っていました。
他に7名のおじいちゃん、おばあちゃんが出演していましたが、たぶんみなさんも70代だったんですね。バレエの公演で老人だけでほぼ1幕もたすというのは初めて見ました。正直いうとちょっと長すぎましたが、マリリンがいたから、見ていられました。彼女は振付家のスタントン・ウェルチのお母様で、ボロバンスキーバレエとオーストラリアバレエでプリマとして活躍したというのは、このお話の主人公と一緒。
今でも十分美しくて、はかなげで、他のキャストが考えられないほど、この老クララがぴったりです。

疲れてベッドに横になった老クララは、夢の中で若いクララとなって起き上がります。
そして付き添いの医者は、彼女の恋人に変身して、美しいパ・ド・ドゥを踊ります。
さんざん老人ばかり見せられた後の、若々しい二人が、一服の清涼剤のようにみずみずしく、空気をリフレッシュしてくれました!
レイチェル・ローリンズ扮する若いクララは、最初、足が太い?と感じたのですが、体型や控えめな雰囲気が似ていて、マリリン・ジョーンズの若いころという説得力がありました。(このあたり、迫力あるルシンダ・ダンのクララだと少し違和感があったかもしれません)

愛のパ・ド・ドゥの後に、ねずみたちが出てきて、クララをいじめます。
ねずみは赤い腕章をしていて(革命軍の象徴)で、当時のコラージュ映像が舞台いっぱいに映し出されて、スモークがたかれる中、ねずみとクララのバトルが……(長かった)で、恋人は死んでしまう。

大時計の下から巨大マトリョーシカが現れて(ちょっとびっくり)
それを開けると(縦開きです。棺桶みたい)またマトリョーシカ。
それを開けるとまたまたマトリョーシカ(笑)
それを開けると、白いネグリジェの少女のクララが現れました。

その後が雪の踊りです。頭にタンポポの綿毛のような丸いかぶりものをした「雪ん子」たち。
綿毛のように、同じ方向へくるくるっとまわって、まわって、ぺたっと地面に倒れて、
そのままお尻でまわって…というような、かわいい振付。
ラジオシティ・ミュージックホールのレビューか50年代ミュージカルみたいで、私はこれ結構気に入りました。

第2幕は盛りだくさんです。
バレエ学校のシーンから始まり、恋人とのピクニック。
皇族の前でグラン・パ・ド・ドゥを踊るクララ。衣装がバレエ・リュス風でゴージャスです。
王室のダンス・パーティで踊られるのが「花のワルツ」。みんな黒っぽいロングドレスで重々しく、花のワルツのイメージとは正反対。
「金平糖の踊り」は、クララを見染めたお金持ち達が、彼女に我こそはと宝石をプレゼントしようとするシーンで使われました。
チェレスタの響きが、宝石がキラキラしているように聞こえて、これはうまい演出でしたね。

その後、恋人が戦争に行って死んでしまい、クララはバレエ・リュスに入ることにしました。
ここでまた映像で、クララのロシア脱出と客船で世界を回ることが語られます。
「スペインの踊り」は、小銭をやって踊らせたジプシーのダンスとなり、
「アラビアの踊り」は、綱につながれた半裸の奴隷たちの踊りとなっていました。
「中国の踊り」は、無音ではじまり、スモークの中を20人以上が太極拳をしています。
そこに人力車に乗ったクララが通りかかるという趣向でした。
音楽とまったく違うスローモーな動きをしている人たちとの対比が強烈でした。
でも、中国に行ったことのある人は、あの光景が目に焼きつくのだと思います。マーフィーもきっとそうだったんでしょう。
中国は神秘的な感じがしますが、スペインとアラビアは、うらぶれて暗く、物語のつじつま合わせを優先したばかりに楽しさがなかったので、ちょっとがっかりでした。

オーストラリアの港では、水兵たちが踊っています。ミュージカル「踊る大ニューヨーク」風です。
音楽も、ここはくるみ割りではなく別の曲でしたが、明るくて、さきほどまでの暗いディベルティスマンよりよっぽど良かったです。
バレリーナたちを新聞記者が出迎えて質問を浴びせます。
新聞記者にはセリフがあります。かなりベラベラしゃべっていましたが、さほど違和感はありません。

場面が変わって、劇中劇のバレエシーンになります。
観客に背を向けて、クララが入団したボロバンスキーバレエで「くるみ割り人形」の金平糖を踊るという設定です。
あたかも舞台奥から見ているようで、自分もバレエ団の一員になったように感じられて、ちょっと新鮮な演出でした。
主役を踊り終わって、大歓声のカーテンコールに出るクララ。
投げ入れられた花を拾って、舞台の奥(つまりこちら側)に顔を向けると、それは老クララでした。
最後の音楽が聞こえてきます。
老クララはベッドの方へ行きます。
老クララ、若いクララ、少女のクララの3人がベッドの上で重なります。
走馬灯のように思い出を駆け抜け、彼女は息を引き取ります。

最後に、若いクララからいつのまにか老クララになったのか、全然わかりませんでした。
振返ったとき、その老いる年月の早さに、ぐっときました。

オーストラリア・バレエ団の歴史。
マリリン・ジョーンズのたどった道。
彼女と同じようなたくさんのダンサー達。
過去へのノスタルジー。

映画「バレエ・リュス」を観た方だとなおさら、このノスタルジーが理解できると思います。

パ・ド・ドゥが、ステップは踏まずにリフトばっかりしているとか、映像を使い過ぎだとか、これだけ演劇的な作品にするなら、ねずみじゃなくて兵隊をだしても良かったんじゃないかとか、老人たちで1幕ひっぱるのは長すぎるだろうとか、発想が面白いだけに、もっと完成度を高めて欲しいところはありますが、いっそのこともっとセリフを増やしてミュージカルにしてしまうのも面白いかもしれません。


posted by haru at 01:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 公演レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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